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見付|学術特集『東海道遠州見付宿』を読む(26)

大通行の人馬数を比べる ── 動員規模と助郷の広がり

動員表が示すのは行列の規模だけではない。負担がどこまでの村に及んだか、という範囲でもある。

大通行の規模を比べたい ── そう思ったとき、最初にすべきは数字を並べることではなく、数字の種類を揃えることである。定数と実働数、予定数と実績数、基準額と実徴収額。本特集第2部でたどってきた区別を整理し、そのうえで動員が助郷村へどう広がったかを読む。あわせて、本特集が到達できなかった地点を記して第2部を閉じる。

本稿の要点
  • 比較の前に、定数と実働数、予定数と実績数、基準額と実徴収額、公定と相対を揃える必要がある。
  • 通行の性格(幕府公用か諸藩か、宿泊の有無)によって、同じ人馬数がまったく違う意味を持つ。
  • 動員表が示すのは行列の規模であると同時に、助郷として負担が及んだ範囲でもある。
  • 本特集第2部は同書第一章・第二章から確認できる事項を軸としており、第三章以下は照合を要する。

比べる前に、揃えるものがある

大通行の規模を比べたい ── そう思ったとき、最初にすべきは数字を並べることではない。数字の種類を揃えることである。本特集第2部でたどってきたとおり、見付宿の史料に現れる数値には、性格の異なるものが混在している。

混同しやすい区別内容詳しくは
定数と実働数制度上そこに置くべき数と、その日実際に動かせた数人足100人・馬100疋とは何か
予定数と実績数先触に記された必要人馬と、宿が実際に継いだ人馬先触れから出発まで
基準額と実徴収額正徳の元賃銭と、割増率を掛けた実際の額御用継立の実務
公定価格と相対価格御定賃銭と、当事者が自由に契約した相対賃銭伝馬賃銭のしくみ
宿内の負担と助郷の負担宿が自ら出した人馬と、村々に割り当てた人馬本稿

本特集第2部の各ページで確認した区別を、本稿で一覧に整理した。

これらを揃えずに数字を比較すると、たとえば「幕末の通行は江戸中期の7倍の費用がかかった」といった、意味のない結論が容易に出てしまう。賃銭の割増だけで額面は数倍になるからである。比較とは、まず同じ種類の数字を選び出す作業のことである。

通行ごとに条件が違う。 そのうえでなお、大通行どうしの比較には難しさが残る。通行の性格が一つひとつ違うからである。

大名行列、幕府役人の一行、公家や使節、そして幕末の軍勢 ── これらは人数だけでなく、荷物の量、休泊の要否、証文の種別が異なる。御用継立の実務で見たとおり、幕府の公用は無賃、諸藩は御定賃銭という区別があった。同じ100人の通行でも、宿の帳簿の上ではまったく違う意味を持つ。

宿泊の条件も一定ではない。大通行が見付宿に来た日で述べたとおり、文久2年(1862年)の御上洛御宿割下帳は見付宿を1,083軒(うち表町732軒)と数え上げた。宿泊を伴う通行では、宿の空間そのものが動員の対象になる。宿泊なしで通り過ぎる通行と、宿全体を割り当てる通行とを、人馬数だけで比較することはできない。

負担はどこまで広がったか ── 助郷。 大通行の規模を測るうえで、宿内の人馬数だけを見るのは片手落ちである。必要数が宿の能力を超えれば、負担は助郷村へ広がった。動員表が本当に示しているのは、行列の規模であると同時に、負担が及んだ範囲なのである。

助郷は、元禄7年(1694年)の助郷役令によって定助郷が制度化された仕組みで、村高に応じて人馬を割り付けるのが基本であった ── これは近世宿駅制度一般に属する経過である。以後、加助郷・当分助郷といった追加の枠が重ねられていく。同書は第六章に「見付宿の助郷制とその変遷」を立て、この問題を独立の章で扱っている。

「変遷」という語が置かれていることに注意したい。助郷の枠組みが一度決めたきりでは維持できず、たびたび組み替えられたことを、章題そのものが示している。馬をどう補ったかで述べたとおり、農村にとって馬は農作業に欠かせない資産であり、街道の必要と村の生産は同じ馬をめぐって競合した。助郷出役の遅れや不足を怠慢と読むことはできない。

見付宿の助郷村の構成、村ごとの割当数、負担の変遷については、磐田物語では見付宿の助郷制度と周辺村の負担が扱っている。本稿では、助郷村ごとの割当数を示す数値を確認できていないため、個別の村名や数量には踏み込まない。

華やかさの裏で、誰が支えたか

大通行は、宿場町にとって二つの顔を持っていた。大通行が見付宿に来た日で整理したとおり、宿泊と商いを生む一方で、無賃継立、待機、道路と橋の整備、飼料の臨時調達といった費用を伴った。

このうち、記録に残りやすいのは前者である。本陣に立つ関札、宿を埋める行列、旅籠屋の賑わい ── 華やかな側面は、絵にも紀行にも残る。一方、待つことも負担だったで述べたとおり、待機の時間には帳簿に欄がない。伝馬を飼うで述べたとおり、飼料と馬具の費用も数値としては残っていない。

だからこそ、人数表を「多くの人が通った記録」で終わらせてはならない。見付宿の人馬割で見たとおり、その人馬を出したのは表間口の広さに応じて役を負った171軒であり、足りない分を出したのは周辺の村々である。動員表の数字の一つひとつの背後に、その日に他の仕事を諦めた家がある。

本特集第2部を閉じるにあたって。 ここまで14ページにわたって、見付宿の人馬継立を制度・実務・史料の三方向から読んできた。最後に、本特集が到達できなかった地点を記しておきたい。

継立帳簿は何を記録したかで一覧したとおり、確認できなかった事項は、常備人馬の実数、馬の購入価格と飼料費、相対賃銭の実際の契約額、川留めの日数、天竜川渡船の運営、天保10年の賄帳の収支、そして助郷村ごとの割当数である。これらはいずれも『東海道遠州見付宿』の第三章から第七章、および原本にあたっての照合を要する領域にある。

言い換えれば、本特集第2部は、同書の第一章・第二章から確認できる事項を軸に、第三章以下の主題を扱ったものである。その限界は各ページに明示した。今後、同書の当該章および見付宿の宿方文書そのものにあたることができれば、ここに掲げた空白のいくつかは埋められるはずである。

特集の全体像は特集トップから、宿そのものの姿は見付宿のすがたと戸口からたどられたい。

動員表を比較する5段階。 実数を比較する場合は、表へ転記する前に史料の条件を揃える。次の順序を固定すれば、予定数と実績数、宿内分と助郷分を混ぜにくい。

段階作業除外・保留する数字
1 文書の特定先触・宿割帳・助郷割付・継立帳を分ける文書名・年代が不明な転記
2 通行の特定幕府公用・諸藩・使節、休泊の有無を記す通行主体が分からない件
3 数値の分類定数・予定数・実績数を分けるどの段階の数字か不明な件
4 負担主体の分類宿内・定助郷・加助郷を分ける供給元が分からない人馬
5 単位の統一本馬・軽尻・人足、元賃銭・割増後を揃える異なる単位の単純合計

見付宿の動員表に必要な列。 本稿で現時点の数値表を掲げないのは、第三章以下の該当頁と助郷割付を再照合できていないためである。代わりに、今後原史料から作成する動員表の必須列を示す。

日付・通行文書種別予定人馬実績人馬宿内分助郷分賃銭区分休泊
史料の日付と通行主体先触/割付/継立人・疋・単位人・疋・単位見付宿171軒側村名と割当無賃/御定/相対本陣・旅籠・寺・一般家

この列が埋まれば、行列の大きさだけでなく、予定との差、宿外へ移された負担、無賃通行の比重を比較できる。逆に、列の一部しか埋まらない史料から総動員数を推計すると、数字だけが精密で意味が曖昧な表になる。

確定できることまだ確定できないこと
比較前に揃えるべき数値の種類個々の大通行の総動員数
宿内不足が助郷へ広がる制度構造村別の出役数・欠勤・代替
宿割帳が宿泊収容を数える資料であること宿泊と輸送を合わせた総負担額

したがって本稿は「動員表の読み方」を完成させた段階にあり、「見付宿の動員実数表」を完成させた段階にはない。題名の「比べる」は、数字を多く並べることではなく、比較可能な数字だけを選び出すことを指す。

更新履歴:2026年8月8日 初版公開。2026年8月9日 全面改稿。数値比較の前提を整理する表、助郷への広がり、特集第2部の到達点と限界を追加し、結びのページとして再構成した。 2026年8月10日、学術記事スキルv5.1で再査読し、根拠範囲・比較表・検証課題を追記。

参考資料

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