「おどける」は、ふざけることだろうか。それとも、びっくりすることだろうか。磐田南高校同窓会関東支部の冊子『遠州方言』には、福田で育った人たちの暮らしと言い回しが残されている。同じ日本語に見える語の違い、家や道の呼び方、短いひと言が伝える気持ちを、冊子の記録から読み直してみたい。
福田の記憶と言い回し
冊子の奥付に記された執筆者は、落合博(高17回)と落合ギャラン章子(高15回)。巻頭の挨拶では姉弟として紹介され、二人とも磐田郡福田町の出身とされている。関東支部のホームページの連載をまとめたもので、発行元の紹介ページにも、2011年11月12日の総会で配布したことが記されている。[冊子1・23頁/発行元の紹介]
第一回の冒頭には、遠州を離れて長い年月を過ごした卒業生が、少年・少女時代を思い出しながら作ったという説明がある。企画を考えた人たちは昭和10〜40年に遠州で生まれ育ったと記し、当時の語が若い人には分からない場合もあると断っている。掲載された「今」や「現在」を、そのまま2026年の状況として読み替えることはできない。[冊子3頁]
この資料の面白さは、言葉の意味と一緒に、それを使った場面が書かれていることにある。一方で、思い出をまとめた記録と、多数の話者を一定の条件で調べた調査とは、確かめられる範囲が異なる。語の記録があることは分かっても、何人が使うのか、どの地域まで通じるのか、いつ生まれたのかは別に調べる必要がある。郡誌・国研の資料室と行き来しながら読むと、資料ごとの性格も見えてくる。
「はー・みょー」の短い会話。
冊子6頁が取り上げるのは、「はー」と「みょー」である。「はー」は、すでに済んだことを示したり、もうこれ以上はしないという気持ちを表したりする語として説明される。「みょー」は、見ることを促す形や、試してみるよう勧める形などで登場する。[冊子6頁]
はー
すでに/もう/これ以上は
終わったことか、これからの行動をやめることか。前後の会話で読み分ける。
みょー
見ろ/見てみたら
見る・試すよう促す言い方として、冊子に複数の場面が示される。
二つが続くと、単に「ほら、見なさい」と言うだけではない。冊子では、心配していたことがもう起きてしまった場面や、待つはずだった行動を先にしてしまった場面が紹介されている。起きたことを相手に示しながら、予想や注意を思い返させる言い方として読むことができる。これは冊子の例に基づく説明で、録音から抑揚を分析したものではない。
編集部作例
「片付け、はー済んだに。」
標準語訳:片付けは、もう済んだよ。
短いことばほど、一語一訳だけでは会話の働きが見えにくい。誰が何を待っていたのか、すでに何が起きたのかまで聞くと、「はー」が加える意味がつかみやすくなる。作例は本サイトが説明用に作ったもので、冊子からの引用や話者の採録ではない。
「おどける」と「ちょうける」。
冊子10頁では、遠州の「おどける」を、驚く・びっくりする意味で紹介する。急に驚かされた場面で使う語で、標準語の「おどける」を思い浮かべると、行動した人と驚いた人の受け取り方がずれてしまう。ふざけることは、同冊子では「ちょうける」(4頁)や、子どもなどについての「くるう」(16頁)としても説明される。[冊子4・10・16頁]
| 語 | 冊子での意味 | 場面の読み方 |
|---|---|---|
| おどける | びっくりする | 驚かされた側の反応 |
| ちょうける | ふざける | 授業中などに、ふざける行動 |
| くるう | (子どもなどが)ふざける | 法事の場で子どもをたしなめる例 |
冊子には語の成り立ちについて筆者が考えた説明もある。ただし、ここでは語源が証明されたものとして採用せず、紙面で確認できる語義と場面を紹介する。第一回には福田のことばが混じる可能性も書かれているため、遠州のどの家庭でもこの区別をする、という説明にはしない。

家・食卓・道のことば
「おおえ」は座敷、「おおど」は家の前の広い場所。冊子10頁では、「おおど」が農作業などをする場所としても説明される。どちらも家に関係するが、同じ場所ではない。家の話を聞くときに「部屋だったのか」「屋外だったのか」を添えて確かめると、その家での使い方が分かりやすくなる。[冊子10頁]
食卓では「あんもう」が餅、「おっしい」がみそ汁、「がんきめ」がそらまめを指す。「おっしい」の説明には、具を指す「み」も出てくる。また、枯れた松葉の「ご」には、土間やかまどの焚きつけに使った回想が続く。単語を並べるだけでなく、食べ物や燃料をどこで手に入れ、どう使ったかまで読むと、ことばと暮らしが結びつく。これらは冊子に記された回想として紹介している。[冊子10頁]
絵札:磐田物語、2026年制作。生成AIを用いた編集部作例の創作画であり、2011年の冊子の挿絵や当時の福田を記録した写真ではない。制作と遊び方。
道の話にも語義の広がりがある。辞典の「じゅるい」には果汁の多いみかんの作例があるが、冊子18頁には、雨後の道がぬかるんだ状態を指す記録がある。「おおぼったい」も、辞典のまぶたの作例に加えて、冊子16頁では膝に使われる。どの物や身体の部分について話しているかを残すことが、語の意味を狭く決めつけない手がかりになる。[冊子16・18頁]
冊子から拾う、暮らしの12語
意味は編集部による要約。原資料の語形を残し、現在の一般的な使用を示すものとは区別した。「ちょうける」は既存の見出しに出典を補足し、ほかの11語は今回の辞典・かるたにも追加した。「おどける」も新たに収録し、全134語になった。
| 資料の語形 | 意味・場面の要約 | 冊子 |
|---|---|---|
| ちょうける | ふざける | 4頁 |
| らんごく | 散らかったり、物事が混乱したりしている状態 | 8頁 |
| がんきめ | そらまめ | 10頁 |
| おおえ | 座敷 | 10頁 |
| おおど | 家の前の広い場所。農作業などの場として説明される | 10頁 |
| おやく | 親戚・親類 | 10頁 |
| ご | 枯れた松の葉。焚きつけに利用した回想が続く | 10頁 |
| かあばる | こびりつく | 12頁 |
| もっこ | たくさん | 12頁 |
| てんだい | 手伝い。「家のてんだい」という形で紹介される | 16頁 |
| あまけ(雨化) | 雨天 | 18頁 |
| ゆるせくない | せわしない。人を急かす場面で紹介される | 18頁 |
この表は、家の場所、食べ物、道や天気の状態という異なる話題を並べたもので、すべてが同じ場面で使われるわけではない。「ご」は燃料を集めた暮らし、「おおど」は家の前で行った作業と結びつけて読むと、標準語の一語に置き換えただけでは伝わらない背景を考えやすい。聞き取りの際も、語の意味に加えて、その物がどこにあり、何に使ったのかを尋ねる手がかりになる。
辞典29語と冊子の対応
今回、遠州弁辞典・かるたの29語に、次の資料欄を掲げた。表記が違う場合は同じ綴りとして扱わず、原資料の形も併記した。郡誌・国研の既存出典、122語の固定リンク、絵札と使用例は引き継いでいる。
出典:落合博・落合ギャラン章子『遠州方言』、静岡県立磐田南高等学校同窓会関東支部、2011年11月12日。下表は紙面の要約・照合であり、全文翻刻ではない。
| 辞典へ | 資料の語形 | 確認した意味・範囲 | 参照頁 |
|---|---|---|---|
| くろ | くろ | 隅。物を置く場所を説明する語として紹介される。 | 4頁 PDF 5 |
| おえん | おえん | 禁止の「だめ」に加え、状況が悪い、困ったという場面にも使うと説明される。 | 4頁 PDF 5 |
| ひずるしい | ひずるしい | まぶしい、の意味で紹介される。 | 8頁 PDF 9 |
| けっこい | けっこい | きれい、の意味で、イルミネーションを見る場面が挙げられる。 | 8頁 PDF 9 |
| あんも | あんもう | おもち。辞典の見出し「あんも」と表記が異なる。 | 10頁 PDF 11 |
| おっしー | おっしい | みそ汁。汁の具を「み」と呼ぶ説明もある。辞典の「おっしー」と表記が異なる。 | 10頁 PDF 11 |
| さら | さら | ごと、すべて。植木の土やりんごの皮を含める使い方が紹介される。 | 12頁 PDF 13 |
| ぽんぽん | ポンポン | オートバイ。浜松へ出かける場面が挙げられる。原文は片仮名表記。 | 12頁 PDF 13 |
| いみ | えみ/えんみ | ガラスなどに入るひび。「えみが入る」の見出しに「えんみ」の別形も添えられる。辞典の「いみ」と語形が異なる。 | 14頁 PDF 15 |
| こずむ | こずむ | 沈殿する。泥が沈んで水が澄む場面で説明される。 | 14頁 PDF 15 |
| ちゃっと | ちゃっと | すぐに。出発した人を急いで追う場面が挙げられる。 | 14頁 PDF 15 |
| やっきりこく | やっきりする | 腹がたつ。資料が確認できるのは「やっきりする」という語形と語義で、怒りの細かな性質すべてを裏付けるものではない。 | 14頁 PDF 15 |
| おおぼったい | おおぼったい | 腫れぼったい。膝の状態を説明した筆者の回想があり、まぶたに限らない用例を確認できる。 | 16頁 PDF 17 |
| じゅるい | じゅるい | ぬかるんでいる。雨のあとに滑りやすい道を説明する用例。辞典の果汁の作例とは別の用法。 | 18頁 PDF 19 |
| おっさま | おっさま | 法事で坊様が来る場面に使われ、標準語訳も添えられる。 | 16頁 PDF 17 |
| けんが | けんが | 例文中の「けど」に対応する形として説明される。 | 8頁 PDF 9 |
| おどける | おどける | びっくりする。標準語の「ふざける」とは異なる意味で紹介される。 | 10頁 PDF 11 |
| らんごく | らんごく | 散らかった状態や物事が混乱した状態を指す。 | 8頁 PDF 9 |
| がんきめ | がんきめ | そらまめ。 | 10頁 PDF 11 |
| おおえ | おおえ | 座敷。家の前の広い場所「おおど」と区別される。 | 10頁 PDF 11 |
| おおど | おおど | 家の前の広い所。主に農作業などの場所として説明される。 | 10頁 PDF 11 |
| おやく | おやく | 親戚・親類。 | 10頁 PDF 11 |
| ご | ご | 枯れた松の葉。焚きつけに使った回想が続く。 | 10頁 PDF 11 |
| かあばる | かあばる | こびりつく。 | 12頁 PDF 13 |
| もっこ | もっこ | たくさん。 | 12頁 PDF 13 |
| てんだい | てんだい | 家の手伝いをするよう促す例で紹介される。 | 16頁 PDF 17 |
| あまけ | あまけ | 雨天。「雨化」の字が添えられる。 | 18頁 PDF 19 |
| ゆるせくない | ゆるせくない | せわしない。人を急かす場面で説明される。 | 18頁 PDF 19 |
| ちょうける | ちょうける | ふざける。 | 4頁 PDF 5 |

家での言い方を聞き残す。
冊子を読んで「家でも言った」と思い出したときは、その語を使った人、育った場所、聞いた年代、何について話したかを一緒に書いておきたい。同じ言い方でも、味を表すときと道の状態を表すときでは、覚えている場面が違う。今は使わないという答えも、昔の記録を否定するものではない。
家族に聞くなら、「この語を知っていますか」に続けて、「誰が、どんなときに言いましたか」と尋ねる方法がある。あとから作った例文と、実際に聞いた言葉は分けて記す。本サイトのかるたも会話の入口にできるが、絵の場面に答えを合わせてもらう必要はない。土地や世代による違いを、そのまま残すことに意味がある。
思い出した言い方は掲示板へ寄せることもできる。個人名など公開したくない情報は書かず、差し支えない範囲で地域と場面を添えてほしい。冊子の記録、家で聞いた記憶、辞典の作例を混ぜずに積み重ねることで、磐田のことばの見え方は少しずつ豊かになる。
出典と確認範囲
- 資料名
- 『遠州方言』静岡県立磐田南高等学校同窓会関東支部特別編集
- 執筆者
- 落合博(高17回)、落合ギャラン章子(高15回)
- 発行
- 静岡県立磐田南高等学校同窓会関東支部、2011年11月12日。奥付の発行人は同支部支部長・近藤彰。
- 参照した箇所
- 冊子1頁(挨拶・執筆者)、3頁(回想の範囲)、4頁(くろ・ちょうける・おえん)、6頁(はー・みょー)、8頁(語彙・けんが)、10頁(家・食卓・おどける)、12頁(さら等)、14頁(えみ・こずむ・ちゃっと・やっきりする)、16頁(膝・くるう・てんだい等)、18頁(じゅるい等)、23頁(奥付)。PDFではそれぞれ+1ページ。
- 公開元
- 磐南同窓会関東支部「遠州方言」。発行と連載をまとめた経緯は同ページでも確認した。PDFの閲覧条件は公開元の案内に従ってください。
- 編集方針
- 提供PDFの画像を直接確認し、内容を要約して再構成。本文の「編集部作例」は独自に作成した例文。冊子に含まれる歌詞、翻案歌詞、誌面画像は転載していない。冊子の回想を現在の使用率や語源の確定根拠にはしない。
資料確認:2026年11月5日。本記事の編集・解説:磐田物語。資料の執筆者と本記事の編集者は別である。
2026年11月5日追補:資料に基づく12語を辞典・かるたに追加し、既存の「ちょうける」にも出典を補った。対応表を29語に拡充し、本文に創作の挿絵を加えた。
2026年11月5日公開。『遠州方言』の書誌・参照頁、福田の語彙と回想の範囲を整理。


