失われる前に、磐田の記憶を記録し、次の世代へ手渡す
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遠州弁かるたの作り方・遊び方 ── 引札風の122語

遠州弁辞典の122語に、一語ずつ場面の異なる絵札を添えた。選んだ画風は引札風。ことばを覚えるだけでなく、「うちではこう言う」と話し始めるための、家庭と学びの場のかるたである。

引札を手がかりに、今日の暮らしの場面を描く

今回の絵札は、淡い紙の地色、藍色の輪郭、朱や黄土色の差し色を基本にした。古い印刷物を思わせる粒子やかすれを加え、画面の左上にひらがな一字を置いている。これは歴史資料そのものを切り抜いたものではなく、新しく制作したイラストである。佐口史料室で紹介する引札の世界に関心を持つ入口として、昔の広告印刷を連想させる雰囲気を選んだ。資料の複製と創作の絵を取り違えないよう、辞典にも制作方法を記した。

描いたのは、特別な行事だけではない。鍋をのぞく、服を畳む、定規を貸す、隣の人に声をかける。短い会話が生まれる暮らしの場面を、語の意味に合わせて選んだ。「だら」は今夜の献立を確かめる場面、「せんひき」は定規を手渡す場面というように、辞典の用例から絵の内容を決めている。用例は編集部の作例であり、特定の住民から採録した発言ではない。人物、家、通りなども架空の表現で、実在する人や場所を記録した絵ではない。

制作には生成AIを使用した。一語ごとの場面指定と共通の画風をもとに画像を生成し、頭文字、意味との対応、画像の寸法を確認して掲載した。人物の表情や背景は説明のための演出を含むため、当時の服装や家屋を復元した歴史画としては扱えない。引札風の紙肌を用いた絵に現代の道具が登場するのも、現在の読者が意味をつかみやすい場面にしたためである。時代の考証が必要な授業では、絵札と歴史資料を区別して使ってほしい。

ウェブ版では、辞典の「絵札で並べる」を押すと絵を一覧できる。絵札を開けば大きな画像と意味を確認でき、検索やカテゴリによって使いたい語を絞れる。122枚を最初から全部覚える必要はない。まずは家で聞いたことのある言い方を数枚選び、絵のどこが意味につながっているかを話すだけでもよい。「この場面なら別のことばを使う」という反応も、辞典を生活に引き寄せて読む方法になる。

なお、左上の一字は辞典の見出しの読みを目印にしている。語尾や助詞を含む辞典なので、通常のいろはかるたのように、異なる頭文字の読み札が一枚ずつそろう構成ではない。同じ文字で始まる札も複数ある。頭文字だけで取る競技として遊ぶより、見出し語や例文を読んで場面の合う絵を探す方が、この122語には向いている。人数や経験に応じて枚数を減らし、取り方を先に決めておくと、知らない語がある人も参加しやすくなる。

献立を確かめる場面の「だら」の絵札
台所の会話から
定規を使う「せんひき」の絵札
道具の呼び名から
餅を囲む「あんも」の絵札
食べ物の記憶から

絵の印象が言い方を決めつけないよう、読み札の標準語訳も一緒に確認する。笑顔や困った顔だけで意味を覚えず、文の中で何を伝えているかを話し合いたい。

印刷して遊び、聞いたことばを資料へ戻す

印刷用PDFには、絵札と読み札を対にして並べた。A4の用紙に印刷し、枠に沿って切れば使える。読み札には見出し語、作例、標準語による言い換えを置いている。まず読み手が見出し語を言い、続けて例文を読む方法なら、初めて聞く語にも対応しやすい。慣れたら例文だけを読み、絵を探す方法に変えられる。標準語の説明を読むかどうかは、参加者の様子を見て決めればよい。見出しの一字が重なる札は、絵と文全体で見分ける。

印刷時はA4・縦向きとし、拡大縮小を100%または「実際のサイズ」にする。プリンターの機種によっては自動的に余白に合わせて縮小されるため、最初に一枚だけ出力して大きさを確かめたい。薄い紙で作る場合は台紙に貼ると扱いやすくなる。絵札の背面から絵が透けるようなら、同じ色の紙を裏に重ねる。子どもと工作するときは、はさみなどの道具を使う作業を年齢に合わせて分担する。全部を一度に印刷せず、必要なページだけ選んでも遊べる。

授業や集まりでは、勝敗の前に「知っている」「聞いたことがある」「初めて聞いた」の三つに札を分ける活動もできる。ただし、その場の人数や参加者の選び方によって結果は変わるため、集まりの感想を市全体の使用率として扱わないことが大切だ。誰が古い言い方を知っているかを競わせたり、知らない人を地域外の人として分けたりする必要もない。同じ家の中でさえ、仕事、通学、転居、友人関係によって使うことばの範囲は違う。

話が広がったら、実際の用例を一文だけ記録してみる。「意味は同じだが語尾が違う」「祖母は言ったが自分は言わない」といった補足も役に立つ。録音や名前付きの公開をする場合は、その用途を説明して本人の同意を得てから行う。辞典のアンケートでは、使うか、聞くか、知らないかを選んで回答できる。集まった記録を読むときにも、古い郡誌の記載、国研の調査回答、現在の読者の記憶を一つの証拠として混ぜず、採録の時期と方法を添えて並べたい。

絵札・読み札は、家庭内での利用と、出典を「磐田物語・遠州弁辞典」と示した非営利の教育利用を想定して公開している。ウェブの更新によって説明が変わる場合があるため、配布するときは参照先のURLと利用した版の日付も残しておくとよい。商用の販売物への収録など、ここで示した範囲を超える利用は、サイトの問い合わせ先へ事前に相談してほしい。資料室に転載した国研データや郡誌画像には、それぞれの出典と利用条件があるため、絵札の案内とは分けて確認する。

紙の札を取ったあとに、辞典から資料室へ進むと、作例とは違う古い表記や回答の注記に出会える。たとえば「あんも」に似た形が郡誌のどの村に記録されたか、「せんひき」にどんな話者の思い出が付いているかを確かめられる。絵で意味に近づき、会話で自分の記憶と比べ、資料で記録の範囲を知る。その行き来ができることが、ウェブの辞典と印刷のかるたを一緒に作った理由である。

制作・編集:磐田物語。2026年10月12日版。122語の用例は編集部作例、絵札は生成AIを用いた新規制作。辞典の出典・利用案内、佐口史料室も参照。

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この記事について

著者
大石浩之(磐田市/富士ヶ丘サービス株式会社 代表)
磐田市で不動産・介護事業を営みながら、地域の歴史・地名・寺社・暮らしの記録を調べています。磐田物語では、公開資料と現地情報を確認しながら、地域の記憶をWeb上に残しています。
参考資料
佐口行正氏所蔵資料、磐田市・静岡県等の公開資料、現地確認、郷土史関連資料を参考にしています。記事ごとに主要な参考資料がある場合は、個別に追記してください。
作成方針
本記事は、資料をもとに、史実・地名・地理・時代背景を確認しながら、読みやすい地域史コンテンツとして再構成しています。誤りや補足情報がある場合は、運営者までお知らせください。