磐田のバス交通史 ──
「ユーバス」の挑戦と、2015年の路線廃止
市がみずから走らせた、自主運行バス
磐田市が関わってきたバスには、大きく分けて二つの種類があった。一つは、既存のバス事業者(遠州鉄道等)が運行する民間路線バス。もう一つは、市が費用を負担し、地域の生活交通を維持するために走らせる「コミュニティバス」「自主運行バス(自治体バス)」である。磐田物語の別稿で触れた磐田駅の専用線や、光明電気鉄道のように、鉄道の廃線・縮小が進むなかで、地域の足を確保する役割を担ったのが、こうした自治体主導のバスだった。
遠州初、そして日本初 ── 「ユーバス」の先進性
その代表格が「ユーバス」である。ユーバスは、遠州地方で初めてのコミュニティバスとして走り出した。特筆すべきは、日本で初めてのICカード乗車券「ユーバスカード」を導入したことである。全国の交通系ICカードがまだ一般化していなかった時代に、地方都市の小さなコミュニティバスが先んじてカード乗車を実現していたという事実は、磐田の交通史における、あまり知られていない先進性の証である。
ユーバスが遠州地方初のコミュニティバスであり、日本初のICカード乗車券「ユーバスカード」を導入していたことは確認できる。一方、導入の具体的な年月日や、カードシステムの詳細な仕組みについては、今回のWeb調査の範囲では確認できていない。
2015年、多くの路線が姿を消した日
しかし、こうした自主運行バスの多くは、2015年(平成27年)3月31日をもって、大きな転換点を迎える。この日、磐田市が運行してきた自主運行バスのうち、磐田線を除くほぼすべての路線が廃止されたのである。廃止された路線には、向笠原線・岩田線・桶ケ谷沼線・天竜長野線・鮫島大原線、そしてユーバス、磐田温水プール・磐田市立病院線が含まれていた。かつて先進的な取り組みで知られたユーバスも、この廃止対象の一つだったのである。
路線バスという形態を維持したまま利用者数の減少に対応することが難しくなった結果、磐田市はデマンド型乗合タクシー「お助け号」という、より柔軟な交通手段への転換を選んだ。あらかじめ決まった時刻表・ルートを走る路線バスとは違い、利用者の予約に応じて運行する仕組みであり、人口減少・高齢化が進む地域の生活交通を維持するための、現実的な選択だったといえる。
自治体バスと、民間路線バスの違い
ここで整理しておきたいのが、市が費用を負担する自主運行バスと、遠州鉄道等が運行する民間路線バスの違いである。磐田駅を発着する民間路線バスは、2015年の再編以降も一定の系統を維持しており、磐田市内の移動手段としては、今もこちらが中心的な役割を担っている。市が独自に走らせた自主運行バスの多くが姿を消した一方で、採算の取れる幹線については民間事業者による運行が続いてきたことになる。この住み分けは、地方都市における公共交通の維持が、「誰が費用を負担し、どの路線を残すか」という選別のうえに成り立っていることを、静かに物語っている。
今も残る、磐田線という一本の糸
2015年の大幅な路線再編のなかで、唯一存続したのが「磐田線」である。磐田線は、磐田市・袋井市・森町の3市町が共同で秋葉バスサービスに運行を委託する自主運行バスで、磐田駅と森町とを結んでいる。平日のみの運行ではあるが、複数の自治体にまたがる広域路線として、現在まで生き延びている。多くの路線が姿を消したなかで、この一本が生き残った背景には、森町方面との広域的なつながりを維持する必要があったことがうかがえる。
鉄道の廃線(光明電気鉄道)、専用線の廃止(磐田駅の工場引込線)、そしてコミュニティバスの縮小――磐田の交通史をたどると、時代とともに公共交通の形が絶えず組み替えられてきたことがわかる。華やかな開業の記憶だけでなく、静かに役目を終えていった路線の記憶にも、目を向けておきたい。
| ユーバスの先進性 | 遠州初のコミュニティバス、日本初のICカード乗車券「ユーバスカード」 |
|---|---|
| 2015年3月31日 | 磐田線を除く自主運行バス各路線(向笠原線・岩田線・桶ケ谷沼線・天竜長野線・鮫島大原線・ユーバス・磐田温水プール磐田市立病院線)が廃止 |
| 転換先 | デマンド型乗合タクシー「お助け号」 |
| 現存する路線 | 磐田線(磐田市・袋井市・森町の共同運行、平日のみ) |
主な参考資料
- 磐田市公式ウェブサイト「民間路線バス」
- Wikipedia「磐田市バス」
- 磐田物語「旧東海道と国道1号・県道の主役交代」「光明電気鉄道の夢」
本記事は、上記資料を参考にしつつ、磐田物語の編集方針に基づいて独自に再構成したものである。ユーバスカードの導入年等の詳細は今回のWeb調査では確認できておらず、本文中で確認できた点とできない点を区別して記している。
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