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磐田物語 / 磐田の盛土史
磐田共通 | 水・地形

磐田の盛土史 ──
海を防ぐ砂丘の盛土と、宅地を守る耐震化事業

「盛土(もりど)」と聞くと、近年の土砂災害のニュースを思い浮かべる人も多いだろう。しかし磐田市では、盛土は災害の原因であると同時に、南海トラフ地震から市街地を守るための、頼もしい手段でもある。海岸と台地、二つの盛土の物語をたどる。

砂丘に土を盛って、津波を防ぐ「静岡モデル」

磐田市の沿岸部では、南海トラフ巨大地震で想定される最大クラスの津波に備え、既存の砂丘に土を盛り、海岸林を整備する「静岡モデル」と呼ばれる防潮堤の整備が進められている。完成すれば高さ14メートル、延長11キロメートルにおよぶこの防潮堤は、令和8年度(2026年度)の完成を目指して工事が続けられている。天竜川左岸の河口から竜洋海洋公園を経て駒場海岸観光駐車場の地先にいたる約1.6キロメートルの区間は、盛土によって高さ14メートルの防潮堤を築き、竜洋海洋公園と一体的に整備した上で、広葉樹などの植林も行われている。

「静岡モデル」というやり方の意味

防潮堤整備予定地に民有地が近接している区間では、コンクリートと現地の土砂を混ぜて締め固める「CSG工法」を用いることで、狭い幅でも高さ14メートルの堤防を築けるよう工夫されている。単純にコンクリートの壁を築くのではなく、もとの砂丘地形を生かしながら土を盛り、そこに樹林を組み合わせるこの手法が「静岡モデル」と呼ばれる所以である。平成29年度(2017年度)からは「ふじのくに森の防潮堤づくり」として、地域住民が参加する植樹祭も行われており、行政主導の土木事業でありながら、住民が自らの手で堤防に木を植えるという、参加型の防災事業になっている点も特徴的である。

確認できること・できないこと
防潮堤の高さ・延長・工法・完成予定年度、住民参加の植樹祭の実施年度は、静岡県・磐田市の公式発表で確認できる。一方、提供資料にあった暗渠排水管の口径拡大(50mmから75mmへ)という具体的な復旧工事の記述は、磐田市の台風第15号災害対応報告書等の一次資料では確認できなかったため、本記事では採用していない。

台地の内側では、逆の問題が起きている

海岸で土を「盛って」津波を防ぐ一方、磐田原台地の内側では、かつて谷だった場所を土で埋めて宅地にした「谷埋め型大規模盛土造成地」の地震対策が課題になっている。磐田市内には、調査の結果、3か所の谷埋め型大規模盛土造成地が確認されている。谷を埋めて平らな宅地をつくる造成は、高度経済成長期以降の宅地開発でしばしば用いられた手法だが、地震の際に盛土全体が下方へ滑り動く「滑動崩落」と呼ばれる現象を引き起こす危険があることが、各地の地震被害を通じて知られるようになった。

「滑動崩落」とは何か

滑動崩落とは、地震の際に、盛土によって造成された宅地が、盛土の底面を滑り面として、全体または大部分が下方へ移動・変形する現象を指す。谷埋め型の大規模盛土造成地では、もとの谷底付近や盛土内部にすべり面が生じ、盛土全体が滑り動くことで、家屋や道路に大きな被害をもたらすことがある。国の基準では、盛土面積が3000平方メートル以上のものが谷埋め型大規模盛土造成地として調査の対象になる。

静岡県主導から、磐田市主導へ

磐田市の宅地耐震化推進事業は、平成19年度(2007年度)から静岡県が主体となって進められてきたが、令和4年度(2022年度)からは磐田市が主体となって事業を引き継いでいる。奇しくもこの令和4年(2022年)は、9月の台風第15号によって磐田市が記録的な豪雨被害を受けた年でもある。豊岡地区では9月23日の降り始めからの累加雨量が336.5ミリメートルという記録的な大雨となり、市内全域で住宅等の被害が800件を超えた。地震による滑動崩落とは異なる災害ではあるものの、同じ年に、水害への対応と、盛土宅地の地震対策の主体移管が重なったことは、磐田市が地形に由来するさまざまなリスクへの備えを、同時並行で強化してきた時期であったことを物語っている。

海の盛土、台地の盛土 ── 同じ言葉の、二つの意味

海岸では土を盛ることで津波を防ぎ、台地の内側では土を盛って造成した宅地の弱さと向き合う。同じ「盛土」という言葉が、磐田市では正反対の文脈で使われているのが興味深い。磐田物語の別稿(磐田原から今之浦へ)で扱ったとおり、磐田原台地と沿岸の低地という、性格の異なる二つの地形が同居していることが、磐田市の暮らしと産業を育んできた一方で、その両方の地形において、盛土という人の手による地形改変が、防災上重要な意味を持ち続けている。

自分の土地が「盛土」の上にあるかを知る

谷埋め型大規模盛土造成地は、見た目には周囲の宅地と何も変わらない、平らな住宅地であることが多い。そのため、自分の暮らす土地がかつて谷であり、盛土によって造成された場所であることに気づかないまま暮らしている住民も少なくないと考えられる。国土交通省や自治体が公表する大規模盛土造成地マップは、こうした土地の成り立ちを知るための手がかりになる。土地の売買や住み替えを検討する際、地盤の由来を確認することは、防災の観点からも、資産としての土地を理解するうえでも、意味のある備えといえるだろう。

海岸防潮堤(静岡モデル)高さ14m・延長11km、既存砂丘への盛土+海岸林整備、令和8年度完成予定
整備手法盛土主体、狭小区間はCSG工法。平成29年度から住民参加の植樹祭
谷埋め型大規模盛土造成地市内3か所を確認。平成19年度から静岡県主導、令和4年度から市主導
滑動崩落地震時に盛土全体が下方へ滑り動く現象。盛土面積3000㎡以上が調査対象

主な参考資料

本記事は、上記資料を参考にしつつ、磐田物語の編集方針に基づいて独自に再構成したものである。提供資料にあった浅羽町内遺跡の暗渠溝の記述は、浅羽町が磐田市ではなく袋井市の地域であるため、本記事では採用していない。同様に暗渠排水管の口径拡大に関する具体的な数値も、一次資料で確認できなかったため採用していない。

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この記事について

著者
大石浩之(富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/磐田物語 運営者)
参考資料
佐口行正氏所蔵資料、磐田市・静岡県等の公開資料、現地確認、郷土史関連資料を参考にしています。記事ごとに主要な参考資料がある場合は、個別に追記してください。
作成方針
本記事は、資料の文章をそのまま転載するのではなく、史実・地名・地理・時代背景を確認しながら、読みやすい地域史コンテンツとして再構成しています。誤りや補足情報がある場合は、運営者までお知らせください。