磐田駅前・中泉の近代商業 ──
中泉駅開業から
「天平のまち」まで
磐田駅の改札を出ると、北口には七色にライトアップされる複合施設「天平のまち」が建つ。駅前という現代的な風景の名前に、なぜ古代の元号「天平」が使われているのか。その答えをたどっていくと、中泉という町がどのように近代の商業地へ変わっていったかが見えてくる。
中泉駅の開業と中泉町の成立
明治22年(1889年)4月1日、町村制の施行により、豊田郡中泉村と山名郡二ノ宮村が合併して「豊田郡中泉町」が発足した。その半月後、4月16日には東海道線の静岡・浜松間が開通し、「中泉駅」が開業する。駅の用地は、中泉を代表する素封家で政治家・社会事業家でもあった青山宙平(1818〜1910年)が提供したと伝わり、いまも駅前にはその功績を伝える記念碑がある。
中泉は、遠江国府・国分寺、中泉御殿・代官所と、時代ごとに「治める場所」であり続けてきた町である(中泉御殿・代官所の詳細は中泉御殿のあった町、中泉の三層構造については中泉の生い立ちで扱っている)。そこに鉄道の駅が加わったことで、中泉は行政・信仰の中心地であると同時に、交通の結節点としての性格を併せ持つようになった。明治42年(1909年)には、天竜川水運と駅を結ぶ中泉軌道も開通している(詳しくは中泉軌道とは何だったのか)。
見付との合併と磐田駅への改称
明治29年(1896年)、郡制の施行により中泉町の所属郡は磐田郡へと変わった。昭和4年(1929年)3月1日には梅原村を編入し、町の範囲を広げている。そして昭和15年(1940年)11月1日、中泉町は見付町・西貝村・天竜村と合併し、「磐田町」が誕生した。中泉町としての歴史は、ここで幕を閉じる。
合併から2年後の昭和17年(1942年)10月10日、駅名も「中泉駅」から「磐田駅」へと改められた。旧町名を捨て、新しい市域全体の名を冠する駅名への変更は、中泉という土地が、単独の町から「磐田」という広域の玄関口へと役割を変えたことを象徴している。
駅舎の変遷と商店街の発展
磐田駅の駅舎は、これまでに四度姿を変えている。開業時の初代駅舎は現在よりやや西寄りにあったとされ、大正4年(1915年)6月には鉄筋の2代目駅舎に改築された。戦後の昭和32年(1957年)10月25日には鉄筋2階建の3代目駅舎となり、平成12年(2000年)1月30日には南北を結ぶ橋上駅舎(4代目)へと生まれ変わっている。
駅舎の建て替えと並行して、駅前の商業地としての整備も進んだ。昭和33年(1958年)ごろには、駅前商店街で道路の拡幅が行われ、「名店ビル」と呼ばれる商業ビルが建てられたと伝わる(この名称・時期については地域資料での裏取りが望ましく、断定はできない)。戦後復興期から高度経済成長期にかけて、中泉の商業機能は、御殿・代官所があった時代の「まちの中心」から、駅前という新しい中心地へと重心を移していったとみられる。
| 1889年 | 町村制で中泉町発足。同年、中泉駅開業(東海道線)。 |
|---|---|
| 1896年 | 郡制施行、所属郡が磐田郡に変更。 |
| 1909年 | 中泉軌道開通(天竜川水運と駅を接続)。 |
| 1915年 | 中泉駅、2代目駅舎(鉄筋)に改築。 |
| 1929年 | 中泉町が梅原村を編入。 |
| 1940年 | 見付町・西貝村・天竜村と合併し磐田町発足。中泉町廃止。 |
| 1942年 | 中泉駅が磐田駅に改称。 |
| 1957年 | 磐田駅、3代目駅舎(鉄筋2階建)に改築。 |
| 1958年ごろ | 駅前商店街の道路拡幅、商業ビル建設と伝わる(要裏取り)。 |
| 2000年 | 磐田駅、4代目の橋上駅舎に改築。 |
| 2006年 | 南口バスターミナル運用開始。 |
| 2016年 | 北口広場整備完了。複合施設「天平のまち」開業。 |
令和へ ── 「天平のまち」と国府のまちの記憶
平成28年(2016年)3月、磐田駅北口には複合施設「天平のまち」が姿を現した。夜になると七色に変化するライトアップが施されたシルエットタワーが特徴で、来街者の多様なニーズに応えるべく整備されたという。その名は「天平文化」に由来し、遠江国分寺の七重塔跡など、この地に残る天平時代の史跡を意識してつけられたものだと説明されている。
駅前という、いかにも現代的な再開発の施設に、古代の元号が冠されているのは象徴的である。中泉は、遠江国府・国分寺が置かれた古代から、中泉御殿・代官所が天領を治めた近世、鉄道の駅ができ町の重心が移った近代、そして駅前再開発が進む現代まで、一貫して「治める場所」「結ぶ場所」であり続けてきた。「天平のまち」という名は、その千三百年を超える連続性を、駅前という最も新しい風景の中にそっと刻んでいる。
主な参考資料
- Wikipedia「磐田駅」「中泉町」(開業年・改称年・駅舎変遷・町村沿革の確認)
- 磐田市駅前商店街・磐田駅今昔(中泉地区ウェブサイト。検索エンジンの要約経由で参照、要裏取り)
- 「天平のまち」施設紹介(JR磐田駅北口複合施設公式サイト)
- 磐田市「磐田駅前地区計画」(磐田市公式ウェブサイト公開資料)
- 磐田物語「中泉御殿のあった町」「中泉の生い立ち」「中泉軌道とは何だったのか」
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