見付宿は宿内の人足と馬だけで東海道の公用交通を支えられなかった。不足時に周辺村へ人馬を割り付けた制度が助郷である。田中友次郎編著『東海道遠州見付宿』第六章202〜237頁は、助郷村の名簿、村高、領主、伝馬勤高、買人馬費用を掲げる。前稿では章の冒頭2頁しか確認できなかったが、今回は全章を画像照合し、制度の範囲と負担の形を再構成する。
- 見付宿の第一期助郷は68ヶ村で、天保13年以後84ヶ村、文久2年以後123ヶ村へ組み替えられた。
- 助郷役は村高を基礎にした勤高で配分され、村高・勤高・実働人馬は同じ数値ではない。
- 自前人馬が不足すれば買人馬を雇い、労働負担は金銭負担へ置き換えられた。
- 同書所引の助郷帳原本は未照合であり、全村の細目と合計は今後の検証課題である。
助郷とは何か。 助郷は、宿駅に常備された人馬だけでは公用の継立を果たせないとき、指定村が人足と馬を補う制度である。同書202頁は、宿駅と不離の関係にありながら、宿駅成立後に制度化された要素として助郷を置く。宿内の伝馬役と助郷村の役は別であり、後者は宿の不足分を負担した。
同書は寛永元年(1624年)の中山道太田川助郷の例を制度一般の先例として挙げる。しかし、見付宿の村が同年に指定されたことを示すものではない。制度の起源と、見付固有の指定年を分ける必要がある。
68ヶ村は固定名簿ではない。 見付宿の助郷は時期により組み替えられた。同書218〜219頁の三期区分では、天保12年(1841年)までの第一期が68ヶ村、天保13年以後の第二期が16ヶ村を加え84ヶ村、文久2年(1862年)以後の第三期がさらに39ヶ村を加え123ヶ村である。詳しい村名と地域的広がりは見付宿助郷68ヶ村に分けた。
村数が増えたことは供給圏の拡大を示すが、実働人馬が同率で増えた証明にはならない。追加と廃止、代勤、宿附助郷の変更があり、一村の勤高も一定とは限らない。村数、勤高、出役実績を別に数える。
村高から勤高へ
| 層 | 資料が示すもの | 混同すると起こる誤り |
|---|---|---|
| 村高 | 年貢・諸役の基礎となる公的石高 | 全高が見付宿の役だと誤認する |
| 助郷勤高 | 助郷人馬を割り付ける基準 | 実際に出た人馬数と誤認する |
| 実働人馬 | 特定日に出役・雇用された人と馬 | 延べ数と同時動員数を混同する |
| 賃銭 | 御定・雇賃・助成・刎銭などの金銭 | 受取額と実払額を混同する |
同書220〜229頁は、村名、領主、村高、伝馬勤高を表にする。相給村では一村を複数領主が分け、掛川・袋井・見付の三宿へ勤高を割り分ける場合があった。助郷は今日の行政境ではなく、領主支配と街道の必要を横断して編成された。詳細は助郷高と領主支配で扱う。
労役と金銭はつながっていた
助郷村が自前で人馬を出せないとき、代わりの人足・馬を雇う買人馬が用いられた。同書231頁の天保10年(1839年)集計では、買馬約1,100疋分、買人足約6,600人分に及ぶ。これは一年間の延べ雇用であり、同時動員数でも村の保有数でもない。
買人馬は負担をなくさない。誰が働くかを入れ替え、村へ雇賃支出を生む。御定賃銭、実際の雇賃、宿の立替え、幕府助成、刎銭の差が不足を作る。この金銭経路は助郷人馬の賃銭と代勤、宿会計は見付宿の歳入と見付宿の歳出に接続する。
大通行で何が変わったか。 通常の継立を超える行列が来れば、宿内の常備人馬だけでは足りない。大通行が見付宿に来た日は宿泊の総動員、大通行の人馬数を比べるは予定数と実績数の区別を扱う。今回の第六章により、当時未確認だった助郷村数と買人馬の構造を補える。
幕末の村数増加は、将軍上洛や軍事通行の時期と重なる。ただし因果を村数だけで断定しない。通行日ごとの先触、助郷割付、欠勤・代替、継立実績を接続して初めて、どの通行がどの村へ負担を及ぼしたかが分かる。
負担を一語で決めない。 助郷には人馬出役、買人馬費、宿までの往復、待機、農作業中断、馬の飼養が含まれる。帳簿に残りやすいのは人数と金額で、待機時間と機会費用は残りにくい。一方、買人馬を供給した者に賃稼ぎが生じた可能性もある。訴願書だけで全村の経験を代表させず、受取証文と名簿を照合する必要がある。
本稿の立場は、助郷を「農村の犠牲」とだけ描かず、宿人馬の不足を村高基準で配分し、労働と金銭を移動させた制度として捉えることである。負担の存在は帳簿から確認できるが、その重さの地域差は村別史料を要する。
先行研究と史料の限界。 『東海道遠州見付宿』は、見付宿問屋や村方に残った文書を用いて助郷制の変遷を復元した基礎研究である。村名表、領主表、分布図、買人馬集計を同じ章に置き、制度の地理・支配・会計を接続した点に価値がある。
ただし本稿は同書所引の助郷帳原本を確認していない。今回のPDFでは202〜237頁を全頁画像照合したが、細字の村高と領主名には判読困難箇所がある。疑問符を推測で埋めず、全村合計の再計算を保留した。
次の段階では、原表を行単位で転記し、旧村の郷帳、領主別明細、三宿の助郷帳、訴願書を照合する。村ごとの指定期間、勤高、実働、買人馬費を追えれば、制度の変遷を地域社会の経験へ結び付けられる。
更新履歴
- 第六章冒頭202〜203頁に基づきL2として改稿。
- 第六章202〜237頁を全頁画像照合し、68・84・123ヶ村の変遷、勤高、買人馬、賃銭を加えてL3へ全面改稿。